【映画『セッション』について】
2014年公開、デイミアン・チャゼル監督による大ヒット音楽映画作品。
同年の第30回サンダンス映画祭のグランプリ&観客賞受賞を皮切りに世界各国の映画祭で注目を集め、第87回アカデミー賞では助演男優賞ほか計3部門を受賞したオリジナル作品である。
本作品で注目を集めたデイミアン・チャゼル監督は、後の2017年に『ラ・ラ・ランド』を生み出すことになる若手敏腕監督である。
【あらすじ】
ドラマーを目指し、名門音楽大学に入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、最高の指揮者として名高いフレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。
ここで成功すれば偉大な音楽家になるという野心は叶ったも同然。だが、待ち受けていたのは、天才を生み出すことに取り憑かれたフレッチャーの常人には理解できない〈完璧〉を求める狂気のレッスンだった。ニーマンの精神はじりじりと追い詰められていく。
【『音楽映画』ではなくもはやホラー!?好演がすぎる俳優たち】
公開とともに大変な話題となった2014年、音楽なら専らロックにしか興味のなかった筆者は「ジャズセッション?オーケストラ映画?よくわからないし、いつか観よ~☆彡」と横流しにしていたが、その5年後に観ることになり衝撃を受ける。あの頃のチャラけていた自分を殴りに行きたい。大体の人が良いという物はそりゃあ大体良いに決まっている。
「セッション」というタイトルではあるものの、ただのジャズやオーケストラを取り上げた音楽映画ではない。
フレッチャーという完璧な演奏、天才を作り出す使命に取り憑かれた怪物と、その指導により音楽に執着し精神をきたしていくニーマンによる死闘。もはやドキュメンタリーなのではないかと勘違いしたくなるほど終始緊迫感がある。
特にJ・K・シモンズ演ずるフレッチャーのハマりっぷりが素晴らしい。スキンヘッドにグレーの瞳がフレッチャーの狂気を一層引き立てている。アップがくると恐ろしくて画面を凝視できない。
【ミュージシャンは見るべき!難儀に立ち向かうという『才能』】
芸術に対する真摯な姿勢を苦しほどに目の当たりにされるので、ミュージシャンやクリエイターはもちろん、何かしらでプロフェッショナルという肩書を持ちたいと考えている人はひどく背筋が伸びることになるだろう。
ドラムを叩くニーマンに「テンポが悪い」とフレッチャーがスパルタ指導をする場面があるが、あの場面で自信を持って返答できるミュージシャンはどのくらいいるだろうか。
学生たちが軍隊のようにシゴかれる様子は夢や希望など一切なく、執拗に学生たちに罵声を浴びせヒステリックな指導をするフレッチャーには妙に笑いすらこみあげてくる。
ミュージシャンであれば、スタジオ練習中にバンドメンバーのテンポ感が思わしくない場合にはぜひ「FxxK’n tempo!!!」と怒鳴りつけシンバルを破壊し周りをビビらせよう。
【『もしあの時・・・』怪物の心境。※微ネタバレ】
ニーマンとフレッチャーが街で再会し、バーで酒を交わしあいながら穏やかに語り合うシーンで、フレッチャーが過去に見た天才の話をする。
よくあるような話だが、今までの指導の一部始終を見せられているので、この場面にはいたく説得力を感じた。筆者は自分に甘いな〜と思った時、この言葉を思い出し気合いを入れ直すようにしている。
怪物の人間らしい一面に安堵し、一肌脱いでやろうと心躍らすニーマンに多少感情移入できる場面だろう。終わってみれば、この演出を考えた監督は鬼である。
【全ての人を裏切る衝撃のラスト演奏シーン】
ラストの10分は間違いなく映画史に残る名シーン。
公開当時に映画館で観れなかったことが非常に悔やまれる。
色んな意味で裏切られ、息もできないような緊張感が10分も続くわけだが、エンドロールが流れた瞬間の「やられたー!」感はそこらの映画ではなかなか得られない程のデトックス効果を感じた。観てるだけで全能の神になったような気分だ。しかも、きっと何度見てもやられると思う。
【まとめ】
とにかく気が引き締まるので、ミュージシャンはもちろん、だらけた自分を変えたい人の心に響くこと間違いなし。一度見始めると息もできないまま一瞬でラストを迎える感覚。観終わった後はきっとしばらく放心したのち、無心でジャージに着替えて走り出したくなるだろう。
「セッション」でしか味わえない、正に『狂気を超えた先にある感動』は、是が非でも体験してほしい。
寄稿者名:小沼 理沙